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「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」は、シリーズの持つ独特な雰囲気と新たな魅力が融合した作品です。空木探偵事務所の主人公や神原刑事、久瀬先輩、轟モーター夫妻といった個性的なキャラクターたちが織りなす人間ドラマが見どころ。声優の花江夏樹さんや他の実力派キャストによる演技が、物語に深みを与えています。
まず良い点を挙げます。キャラクターの繊細な表情や手の動きなど、細部までこだわったビジュアルが秀逸です。神原刑事の仕草や、主人公と久瀬先輩の緊張感あふれるやり取りは特に印象的でした。
また特に久瀬先輩の台詞には感情の揺れ動きが強く表現されており、私の心に響くものがありました。
「笑み男」というタイトルが示す通り、本作は表面的な推理を超え、人間の暗部や社会的なテーマに深く切り込んでいます。轟モーター夫妻のエピソードや、久瀬と神原刑事の複雑な関係は物語全体に重厚さを与えているとおもいましたね。
ただ気になる点もあります。それは一本道のストーリー進行です。推理ゲームとしての自由度が低く、事件解決までの過程でプレイヤーが能動的に関与できる部分が少ない点は残念でした。過去作「うしろに立つ少女」や「消えた後継者」のような驚きのあるトリックや推理の醍醐味は薄れていました。
また、コマンド総当たりのシステムは令和の時代にどうでしょうか。プレイヤーが同じ選択肢を何度も選ばなければならないテンポの悪さは、現代のゲームとしては改善の余地があります。特に神原刑事やばさっちとの掛け合いが冗長に感じる場面がありました。
最後に、エピローグの構成です。事件の真相がエンディング後のアニメーションで語られる構成は、本編中にもっと触れられていれば一層の満足感が得られたかもしれません。轟モーター夫妻や、神原刑事のプライベート捜査のその後も描かれていたら、より多くの謎が解けたと感じました。
「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」は、シリーズの35年ぶりの完全新作として、多くの期待に応えた作品です。「うしろに立つ少女」や「消えた後継者」のようなホラー要素や推理の緊張感とは異なり、今作は人間性や心理描写を重視したアプローチで新たな可能性を提示しています。
特に久瀬先輩と神原刑事の関係性、轟モーター夫妻のドラマ、空木探偵事務所の面々の個性など、登場人物がプレイヤーの記憶に深く刻まれるのが最大の魅力です。ビジュアルノベルやヒューマンドラマが好きな方にはぜひプレイしてほしい一作です。